金銭価値と社会価値の相関が下がり過ぎではないか?(後編)

前記事では、社会価値を測る尺度として、金銭価値は役に立たないことを論じた。
それにも関わらず、金銭価値を生み出した者を尊ぶ潮流が強まっている。
本記事では、その理由を考えてみたい。

金銭価値と社会価値、乖離の原因

金銭価値と社会価値は、何故ここまで乖離したのか?
大きな要因として、以下が考えられる:

  1. 金銭価値は利潤で決まる
  2. 利潤は、大きな市場を独占すると、最大化される
  3. 社会的に重要な領域における独占は、厳しく制限される
  4. 社会的に重要でない領域における独占は、相対的に許容される
  5. そのため、規模は大きいが社会的重要度が低い市場を独占すると、金銭価値が最も高くなる
  6. 結果として、社会価値と金銭価値が乖離する

考えてみればシンプルな話である。

実際、仮に、電力会社の独占が許容されるとしよう。
そうすると、需要曲線の非弾力性により、Meta社を遥かに凌ぐ、巨大な金銭価値が生み出されるはずである。

例えば、20世紀初頭の石油市場を独占していた、スタンダード・オイル
この企業は、米国上場企業の全時価総額のうち、6%を占めていた(参照)。
現代で言えば450兆円、Metaの3倍である。

しかし、電力や石油等の生活インフラ市場において、無邪気に独占を認めるわけにはいかない。
初等ミクロ経済学の帰結として、独占は、価格操作や供給抑制を通じて、社会的厚生が低下する。
そうした観点から、独占は厳しく制限されるようになり、スタンダード・オイルも解体された。

一方でMeta社は、価格(広告単価)を釣り上げたり、供給(広告枠)を絞ったところで、市民にとって死活問題となるほどの影響はない。
そもそも、無料C2Cプラットフォームというビジネスモデルの特性上、市民が直接、独占の弊害を受けることがない。
そのため、現行の反トラスト法の根幹を成している消費者厚生基準の観点からは、明確な弊害を示すのが困難であった。
結果として、同様のビジネスモデルを持つweb系企業は、独禁法を厳しく適用されてこなかった

金銭価値と社会価値は、むしろ逆相関

Meta社の創業期に投資したピーター・ティール氏は、著書Zero to Oneで、以下のように論じている:

「企業を成功に導く最良の方法は、独禁法を回避しつつ市場を独占することである」

Meta社は、正にこれを実践したと言えよう。

規制を回避する方法としてZero to Oneが紹介していたのは、実態よりも市場を広く捉えるよう規制当局を説得し、計算される市場占有率を低く抑えることであった。
しかし、それよりも本質的かつ効果的なのは、そもそも事業の社会意義が低く、規制当局が気に留めないことである。

社会価値と金銭価値の一致性を取り戻すには

さて、この問題を解決するには、どうすれば良いか?

消費者厚生基準より包括的な観点から、独禁法/反トラスト法を捉え直すことである。

これは新ブランダイス主義という形で、既に米国で運用が始まっている。
Meta社やグーグル等の米国テック企業は今、反トラスト法違反として、連邦取引委員会から訴訟を起こされるようになった。
(後日追記:2024年8月、グーグルが反トラスト法違反の訴訟で敗訴

今後、別の記事シリーズで、本問題を扱っていきたい。

(後日追記:記事シリースで、本稿のテーマに留まらず、民主政や新自由主義全般を取り扱い、その中で、ブランダイス主義も取り上げた)

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考える人

思考ADHD。思索を共有します。 関心領域は、集団に係る意志の解釈と創造。 主に、政治・経済・社会・文化について考えています。