国家再編の必要性
2〜5つ前の記事(記事1、記事2、記事3。民主政関連記事と呼ぶ)では、阿呆共鳴現象による民主政の自壊を防ぐ方法を提示した。
また、直近の直近の記事では、事業的成功には「確信的価値感覚」が不可欠であることを示した。
この両者を接続的に捉えると、一つの示唆が浮かび上がる。
すなわち、そもそも主権国家を「確信的価値感覚」に基づいて再編すべきではないか? という問題意識である。
たとえば民主政関連記事では、知性主義者たる私の確信的価値感覚に基づき、民主政を制限し、官僚機構を強化することが必要だと論じた。
しかし、仮にテクノリバタリアンのような別種の確信的価値感覚を持つ者からすれば、こうした提言は到底受け入れられないであろう。そもそも目指すべき社会像そのものが異なるからである。
SNS上の政治的レスバが常に平行線を辿るのも、この「理想社会の非共有性」が原因である。
つまり、事実認識の差異以前に、「どんな社会が望ましいか」という価値観の前提が異なっており、そこに議論の収束点など存在しない。
現実の政治もまた、このSNS上のレスバ、すなわち「国家の正当ナラティブ」を巡る争いの延長線上にある。
ゆえに、確信的価値感覚が著しく異なる者同士が一つの主権国家に共存する場合、「あるべき社会像」を巡って必然的に衝突する。
そう捉えると、民主政関連記事で論じた阿呆共鳴プラットフォームの批判や対処も、突き詰めれば「ある確信的価値感覚が、他の価値感覚を打ち倒す手段」を論じたに過ぎないことになる。
より広い視野で見れば、SNSの隆盛により国民が自らの確信的価値感覚を発信するようになり、価値感覚のクラスタリングが発生したが、主権国家はそのいずれか一つの様態しか体現できない。
結果、各クラスタは国家を自らの価値感覚に寄せるべく、政治的な主導権争いを繰り広げる。
これこそが、現代における政治的分断の主要因であると考えられる。
この状況下で、個人が自由に情報を発信できる技術(=SNS等)が存在する限り、確信的価値感覚の異なる集団が一つの国家内に共存し続けることは、深い政治的分断を不可避とする。
政治的分断は憎しみを呼び、やがて殺し合いへと至る。現に20世紀がそれを証明している。
これを防ぐには、国家内における確信的価値感覚を統一する他ない。
しかし、確信的価値感覚は説得により変化するようなものではない。
(もし変化するなら、それは感覚ではなく、単なる仮説である。詳細は当該記事を参照)
となると、答えは一つしかない。
確信的価値感覚に基づいて主権国家を再編する ことである。
それにより、国内の価値観がある程度一様になり、国内対立を劇的に減らすことができる。
国家再編はどのように可能か?
現行の国際秩序においては、国家は領土によって定義され、その領土内では国内法が排他的に適用される。そして他国は干渉しない。
従って、価値感覚の一様な国家を新たに樹立する直感的な方法は、どの国家にも属さない土地で新国家を建てる ことである。
現実的には、人工島を建設し国家を宣言する形になるだろう。
このアプローチは、テクノリバタリアン等が既に複数回試みている(例)。しかし、建設コスト・インフラ維持・国際的承認の獲得など、現実的ハードルは極めて高い。
次に考え得るのは、既存国家からの分離独立 である。
これは旧ユーゴスラビアのコソボや、21世紀初頭の東ティモールに見られるように、実現可能性はある。
ただし、コソボ紛争のように武力衝突が伴う可能性が高く、それを回避する限り、カタルーニャやケベックのような「限定的自治」しか得られないであろう。
最後に残る現実的な手段は、国家の枠組みは維持したまま、住民構成を入れ替える ことである。
確信的価値感覚に基づく移民の意義
たとえば民主国家AとBが存在し、それぞれ以下の構成を持つとする:
- A:社会主義者60%、新自由主義者40%
- B:社会主義者40%、新自由主義者60%
この場合、Aは社会主義的に、Bは新自由主義的に運営されているだろうが、それぞれ国内に価値観の異なる少数派を抱えており、政治的対立が存在する。
このとき、Aの新自由主義者がBへ、Bの社会主義者がAへと相互に移住すれば、両国とも価値観がほぼ一様化され、国内の政治的分断は消滅する。
これは単なる理論上の仮説ではなく、移住を受け入れる多数派にとっても利益がある。
確信的価値感覚が根本的に異なる「忌むべき他者」がいなくなり、同じ価値観を持つ者に置き換わるのである。
たとえば、米国の白人至上主義者に対し、「国内の有色人種と国外の白人を入れ替える移民政策をどう思うか?」と問えば、彼らが歓迎するであろうことは想像に難くない。
さらに、政策実行においても、異なる価値観を持つ者との説得・調整が不要となり、意思決定がスムーズになる。
試験的な政策も通しやすくなり、エビデンスに基づく政策運用(EBPM)も加速する。
結論
以上より、現代民主政の病理を解消する最良の方策は、確信的価値感覚に基づく国家再編 にある。
そしてそれを最も現実的かつ効率的に達成する手段が、確信的価値感覚に基づいた移民の促進 である。
社会の分断は「分けること」によってしか根本的には解消し得ない。
確信的価値感覚の単位で世界を再編すれば、人類は再び「自らの信ずる理想社会」を現実化する可能性を取り戻せる。