労働はオワコンか?

労働が急速にオワコン化している。
主要因は

  1. AIによる代替
  2. 環境依存性
  3. r > g
  4. アテンションエコノミー

である。
以下、個別に見ていく。

AIによる代替

私は零細企業を経営しており、GPT 5.1やGemini 3.0を使っているが、税理士や弁護士が不要になりつつある。
大企業はともかく、従業員100人未満の中小零細レベルでは、LLMと経理/法務の担当1~3人で業務が回ってしまう。
ちなみに営業も、AIで広告や記事を作ってウェブに配信すれば済む。
カスタマーサポートも、AIでプロダクト資料を作りnotebook LMで公開すれば事足りる。
エンジニアも、ちょっとしたツールやプロダクトであれば、vibe codingで十分作れる。
中小零細企業ホワイトカラーの3割以上は、既にAIで代替可能なのではないか。

ブルーカラーは、状況が相対的に良い。AIは身体性を獲得できていない。
しかし、失職したホワイトカラーが大挙してブルーカラージョブに殺到したら、賃金に強烈な下方調整圧力がかかる。
例えばUber。失職したホワイトカラーが大量にUberドライバーになったら、最低賃金のないダイナミックプライシングにより単価は激減。大量発生した競合と客を奪い合うため、乗車回数も滅失。報酬=単価×乗車回数の2変数がいずれも激しく減少する。
資格や熟練性等の参入障壁がある職種(配管工や電気工など)はマシだが、AIの進化スピードに鑑みると、安泰ではない。サイエンティストやエンジニアをAIが代替し、センシングやロボティクスが飛躍的に進展すれば、そうした職種も代替圧力がかかる。

総じて、ホワイトカラー・ブルーカラー問わず、労働者はこれから、AIとの強烈な競争にさらされる。
多くは普通に失職すると思う。

環境依存性

海外に移住して気付いたことだが、労働の価値は環境に激しく依存する。

例えば弁護士。日本で屈指の弁護士だったとしても、海外に移住すると、現地の司法試験に合格したての新米未満になる。
エンジニアもそうだ。現地語に難があると、仕様を正しく理解できずお荷物になる。
大工も同じ。工法や建築基準法が大きく異なるため、未経験よりはマシ程度の評価になる。

いずれも、現地語を学習したり、資格を取ったり、現地で経験を積めば、戦力になりうる。
なりうるが、それはつまり、一旦は新卒以下のレベルにリセットされるので、そこからまたやり直せ、ということである。

労働スキルは、思った以上にポータブルでない。
国を跨ぐと使い物にならず、評価もされない。
要は、環境依存性が非常に高いということだ。

そんなの当たり前?

では、労働と対比させるべく、資本のケースを考えてみよう。
資本の最たるものは、金銭である。
金銭は容易に市場で交換可能である。
例えば日本円を大量に保有しており、米国に移住したとしよう。
円をドルに両替すれば、なんの問題もなく通用する。
労働とはエラい違いである。

今度はGPUサーバーを考える。
GPUサーバーは、世界中に計算リソースを提供でき、その価値は国によって質的に変化したりしない。
日本であろうが、米国であろうが、インドであろうが、ケニアであろうか、1 TFLOPSは1 TFLOPSである。
国を跨いでも、なんの問題もなく通用する。
労働とは偉い違いである。

労働は環境依存性の塊である。
そしてそれは、資本の例を見れば分かるように、決して当たり前ではない。

r > g

r > gとは、資本収益率rが労働賃金の上昇率gよりも高いことを表す数式である。

トマ・ピケティが「21世紀の資本論」にて、上記が歴史的に成り立っていることを論じて以降、散々議論されてきたので、詳細には触れない。

要は、富を増やす上では、労働するのではなく投資をしたほうが良い、ということだ(種銭がある場合)。

テクノ封建制

大量生産による物品・サービスのコモディティ化を経て、付加価値は意味・表象にシフトした。
意味・表象は社会的文脈、すなわち「他者が何をどのように認識していると自己が認識するか」(他者認識の自己認識)で生み出される。
これを分かりやすい指標(エンゲージメント)で市場化したのがソーシャルネットワークであり、これを金銭に変換する装置がアテンション・エコノミーである。
事業の成功はアテンション・エコノミー上の成功に左右されるようになり、そのためのプラットフォームを提供する超少数の企業群(GAFA)が経済のチョークポイントを握った。
その結果、労働分配率はGAFAへの20%以上に上るレントに圧迫され、r > gの構図が加速した。
労働者は、テクノ封建制の下、GAFAへ年貢を納める農奴となった。

結論

労働とは何か?

労働とは、蓄財性が資本に著しく劣り、環境依存性が高く、GAFAへ年貢を納める農奴のような扱いを受けた挙句、AIに根こそぎ代替されそうな活動である。

これをオワコンと呼ぶのか否かは、読者に委ねたい。

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思考ADHD